【年金】老齢厚生年金の「経過的加算」って、何?
こんにちは。
前回は、一定要件に該当する妻に加算される遺族厚生年金の「中高齢の寡婦加算」(40歳-65歳)と、この中高齢の寡婦加算と65歳からの老齢基礎年金との差に相当する「経過的寡婦加算」についてお伝えしました。
今回は、「経過的」つながりで、老齢厚生年金の「経過的加算」についてお伝えします。
1.老齢厚生年金の定額部分
(1) 老齢厚生年金の額のしくみ
経過的加算について説明するためには、まず老齢厚生年金のしくみについて説明します。
老齢厚生年金は、本来、定額部分と報酬比例部分の2つを合算したものです。
経過的加算に関係するのは、定額部分です。
定額部分の計算式は、
1,630円×生年月日に応じた率×被保険者期間の月数
- 単価の1,630円は、正しくは「1,628円×改定率」ですが、今年度の改定率は「1.001」ですので、1,630円になります。
- 「生年月日に応じた率」は、昭和21年4月1日以前に生まれたものについては、生年月日に応じた率(1.875~1.032)を乗じることになっています。それより後に生まれた人の乗率は「1」です。
- 被保険者期間の月数には、昭和21年4月1日以前に生まれた者については、生年月日に応じて420月から468月、それ以後の者は480月という上限が設けられています。
(2) 支給開始年齢の引き上げ
以前は、60歳から老齢厚生年金は支給されていましたが、昭和61年の改正(新法施行)によって65歳からの支給となりました。
したがって、60歳を65歳に移行するために、60歳台前半の人には、当分の間、「特別支給の老齢厚生年金」が支給されることになりました。
しかし、その特別支給の老齢厚生年金についても、まず定額部分について、次には報酬比例部分について、支給開始年齢が段階的に引き上げられており、例えば、今年3月末で60歳定年退職を迎えた人(男性)は、報酬比例部分のみの特別支給の老齢厚生年金が64歳から支給されるという状況です。
民間企業の女性(第1号厚生年金被保険者)は男性より5年遅れで、支給開始年齢の引き上げ措置が実施されていますが、やがて60歳台前半の特別支給の老齢厚生年金はなくなってしまいます。
そして、65歳からは、老齢厚生年金の定額部分に代わって、老齢基礎年金を受給しますので、老齢厚生年金は報酬比例部分のみの支給となります。
2.経過的加算
(1) 経過的加算とは?
以上のことを前提にして、いよいよ経過的加算について説明します。
例えば、[事例]大学を23歳で卒業して企業に就職し、60歳定年でいったん退職扱いになったが、そのまま再雇用で65歳まで働いた人を考えますと、学生の間は国民年金保険料を納付していなかったとしたら、国民年金の保険料納付済期間は37年(60歳以降の厚生年金期間は、「合算対象期間」とされていて、「保険料納付済期間」にはなりません。)ですので、満額(納付済期間40年)の老齢基礎年金は受給できません。
しかし、もし老齢厚生年金の定額部分を受給できたとしたら、上限480月(40年)分を受給できたはずです。
65歳まで定額部分をもらっていた人を考えれば分かりますが、65歳になって、老齢厚生年金の定額部分が、老齢基礎年金になることで年金の額が減少してしまいます。
そのため、65歳になったときに年金額が減少しないように、定額部分相当額と老齢基礎年金(厚生年金期間に係る部分)の額との差を「経過的加算」として、老齢厚生年金に加算することになっています。
(2) 経過的加算の額
経過的加算の計算式(昭和21年4月2日以降生まれの場合)は、
=定額部分の額-781,700円×(20歳以上60歳未満の厚生年金被保険者期間の月数/480月)
上記の[事例]について計算してみますと、
1,630円×480月(上限)-781,700円×37年/40年
=782,400円-723,072円=59,328円
年額約6万円の経過的加算が、老齢厚生年金に加算されることになります。
簡単な説明のために年単位で計算しましたが、実際は月単位ですので、私のように10月誕生月で60歳到達後の年度末定年の場合、定年前の6か月は老齢基礎年金ではなく、老齢厚生年金の経過的加算に算入されることになります。
経過的加算は、65歳からの老齢厚生年金に加算されるものです。
自分で、老齢厚生年金の額を計算するときに、報酬比例部分のみを計算して、実際の年金額より少ないと思ったときは、経過的加算を含めて再計算してみてください。
今回は、老齢厚生年金の経過的加算についてお伝えしました。
今日も、拙い文章をお読みいただきありがとうございました。
(2020.10.17)