【厚生年金】中高齢の寡婦加算、経過的寡婦加算って、何?
こんにちは。
前回は、国民年金の独自給付である寡婦年金についてお伝えしました。
寡婦年金は、国民年金の保険料を10年以上かけていた夫が、年金を何ももらわないまま死亡してしまったときに、婚姻期間が10年以上ある妻に対して、60歳から65歳まで支給されるものでした。
今回は、遺族厚生年金の中高齢の寡婦加算と経過的寡婦加算についてお伝えします。
寡婦「年金」が、単体で支給されるのに対し、中高齢寡婦「加算」は、遺族厚生年金に加算されるものです。
まず、遺族厚生年金の概要を説明します。
1.遺族厚生年金の概要
遺族厚生年金の支給要件等の概要 | ||||
短期要件 | 長期要件 | |||
支給要件 | ① | ② | ③ | ④ |
厚生年金加入中に死亡 | 厚生年金加入中に初診日があって、退職後に初診日から5年以内に死亡 | 障害厚生年金1、2級受給者が死亡 | 老齢厚生年金受給者又は受給資格のあるものが死亡 | |
給付乗率 | 定率(H15.3まで:7.125/1000、H15.4以降:5.481/1000) | 生年月日による読み替えあり | ||
被保険者期間 | 300月に満たない場合は300月とみなして計算 | 実際の期間(300月みなしはない) | ||
保険料納付要件 | 必要 (原則:納付・免除期間が2/3以上、 特例:直近1年間未納なし) |
不要 | ||
中高齢寡婦加算の要件 | 妻が65歳未満であれば支給対象 | 妻が65歳未満、かつ亡夫の厚生年金期間20年以上 |
ここでは、遺族厚生年金の支給要件には、「短期要件」(上記の表の①②③)「長期要件」(④)合わせて4つのパターンがあること、それと「中高齢の寡婦加算の要件」との関係に注目していただきたいと思います。
「短期要件」での遺族厚生年金の場合、妻が65歳未満であれば中高齢の寡婦加算の対象となりますが、「長期要件」の場合は、加えて亡夫の厚生年金期間が20年以上必要である点が違っています。
2.中高齢の寡婦加算
(1) 中高齢の寡婦加算の要件
遺族厚生年金の受給権者である妻が、その受給権を取得した当時、次のいずれかに該当する場合、その妻が40歳以上65歳未満であるときに、中高齢の寡婦加算が行われます。
- 夫の死亡当時、40歳以上65歳未満であったもの
- 40歳に達した当時、夫の死亡当時その夫により生計を維持し、かつ遺族基礎年金の加算の対象となる子と生計を同じくしていたこと
上記2.がわかりにくいですが、夫が死亡した時に、妻が40歳前であったために上記1.に該当しない場合でも、夫の死亡によって遺族基礎年金を受給開始し、妻が40歳になった時点でもその状態が継続している場合がこれに該当します。
この場合には、遺族基礎年金を受給している期間は、中高齢の寡婦加算は支給停止されます。
当該の子が18歳後の年度末(障害のある場合は20歳)を迎えて、遺族基礎年金の権利が消滅したら、中高齢の寡婦加算が遺族厚生年金に加算されることになります。
(2) 中高齢の寡婦加算の額
遺族基礎年金の額の4分の3に相当する額です。
今年度の遺族基礎年金の額は、781,700円ですから、中高齢の寡婦加算の額は、781,700円×3/4=586,300円になります(50円未満の端数は切り捨て、50円以上100円未満の端数は100円に切上げ)。
(3) 中高齢の寡婦加算の趣旨
法律の条文には、制度がどういう趣旨で儲けられたかについては書いてありませんが、解説書などによりますと、夫を亡くした子のある配偶者には遺族基礎年金が支給されるのに対して、子のない配偶者にはそれが支給されないので、両者の間の公平を確保するためとか、子のある配偶者も子が18歳の年度末を迎えると遺族基礎年金が支給されなくなって、遺族厚生年金のみの支給になり、遺族給付が大幅に減少するので、所得保障の観点から、中高齢の寡婦加算が行われるというように説明してあります。
加算があることはありがたいことですので、何も文句を言うところではありませんが、制度が複雑であることと、「なんで40歳?」ということが気になるところです。
夫が死亡した時に、40歳の子のない妻に対しては、年間586,300円が25年間、合計14,657,500円支給されますが、39歳だった妻にはまったく支給されません。
(なお、この40歳要件は、平成19年3月までは、35歳だったようです。)
遺族厚生年金本体の支給要件で、妻の年齢制限はありませんし(夫の場合は、原則、配偶者死亡の当時55歳以上で権利が生じ、支給は60歳から)、この中高齢の寡婦加算にしても、旧来の男女の役割分担を前提にした制度であることは間違いないように思います。
3.経過的寡婦加算
(1) 経過的寡婦加算とは?
複雑なうえに、また複雑な話をしてしまいます。
妻が65歳になれば、自分の老齢基礎年金を受給できますので、中高齢の寡婦加算はなくなります。
しかし、中高齢の寡婦加算の額よりも、老齢基礎年金の方が低額な場合は、65歳以降の年金収入が減少してしまいます。
昭和61年の年金制度の大改正までは、サラリーマンの被扶養配偶者は国民年金の任意加入でしたから加入していなかった人も多く、また、新法施行後も、生年月日によっては、国民年金に加入し、保険料をかけつづけても、老齢基礎年金の額が、中高齢の寡婦加算の額に達しない人たちがいます。
このようなことから、65歳になって年金額が減少しないように、それまで中高齢の寡婦加算が加算されていた人たちを対象に、65歳以降、経過的寡婦加算が加算されます。
(2) 経過的寡婦加算の額
中高齢の寡婦加算の額は、遺族基礎年金の額の4分の3で、遺族年金の額は老齢基礎年金の満額(被保険者期間40年)と同じですから、昭和61年の新法施行時に、すでに30歳以上で、それ以降30年間以上国民年金に加入することができなかった人(昭和31年4月1日以前生まれの人)が、この経過的寡婦加算の支給対象となります。
そして、生年月日の早い人ほど老齢基礎年金の額は少ないわけですから、経過的寡婦加算の額は、次のようになっています。
経過的寡婦加算の額=中高齢の寡婦加算-老齢基礎年金(満額)×生年月日に応じて定める率
生年月日に応じて定める率は、「0」から「昭和30年4月2日から昭和31年4月1日まで生まれ」の「348/480」まで、生年月日が新しくなるごとに大きくなり、結果として、逆に経過的寡婦加算の額は、「586,300円」から「昭和30年4月2日から昭和31年4月1日まで生まれ」の「19,567円」まで減少することになります。
65歳になった途端に、遺族厚生年金の額が減らされたと不満を持つ人がいるらしいですが、老齢基礎年金を合わせると、それまでと同じ額になっているはずです。
ただし、国民年金に未加入、または保険料未納期間がある人は、その期間に応じて年金額が減少してしまうことは、老齢基礎年金の計算のしくみですから仕方がありません。
今回は、遺族厚生年金に加算される中高齢の寡婦加算と、その対象の人が65歳になったときの経過的寡婦加算についてお伝えしました。
今日も、拙い文章をお読みいただきありがとうございました。
(2020.10.10)