子どもの貧困率、ほんの少し改善。でも、OECDの中では、まだ高水準!
1.子どもの貧困率
(1) 直近の数値
こんにちは。
7月17日、厚労省から、2019年国民生活基礎調査の結果が公表されました(調査対象の期間は2018年)。*1
それによりますと、2018年時点での子どもの貧困率*2は、13.5%で、2015年の前回調査の13.9%から、0.4ポイント改善しました。
依然、子どもの7人に1人は、貧困状況にあります。
◆子どもの貧困率の推移は、次のとおりです。
2018年 13.5%
2015年 13.9%
2012年 16.3%
2009年 15.7%
2006年 14.2%
2003年 13.7%
2000年 14.4%
また、「子どもがいる現役世帯」(世帯主が 18 歳以上 65 歳未満で子どもがいる世帯)のうち「大人が一人」の世帯(母子世帯等)の貧困率は、48.1%で、2015 年から2.7ポイント改善しました。
依然、1人親世帯の約半数は、貧困線以下の所得で生活しており、厳しい状況にあります。
◆子どものいる現役世帯(大人が一人)の貧困率の推移は、次のとおりです。
2018年 48.1%
2015年 50.8%
2012年 54.6%
2009年 50.8%
2006年 54.3%
2003年 58.7%
2000年 58.2%
(2) 国際比較
OECD(経済協力開発機構)のデータを見ますと、子どもの貧困率は、2015年の数値において、日本は、OECD37か国のうち、貧困率の低い方から23番目に位置しており、相対的に貧困率は高水準です。
G7各国の数値は、次のようになっています。
フランス 11.2%
ドイツ 11.3%
カナダ 11.6%
英国 12.9%
日本 13.9%
イタリア 18.7%
米国 21.2%
他の国の「子どもの貧困率」もお示ししておきます。
フィンランド 3.6%、デンマーク 3.7%、ノルウェー 8.0%、スウェーデン 9.3%、オーストラリア 13.3%、韓国 14.5%
2.子どもの貧困対策推進法
(1) 制定の経緯
1990年代から、日本社会における「格差問題」に関心が寄せられるようになりました。
しかし、「貧困」についてはあまり語られることがなかったのですが、2006年に、OECDが「対日経済審査報告書」で、
日本の相対的貧困率がOECD諸国の中でアメリカについで第2位であると報告し、これは、大きな衝撃を持って受け止められ、マスメディアにおいても多く報じられた。*3
阿部彩氏は、2008年が「日本の社会政策学者の間で「子どもの貧困元年」と言われる年」であり、また、「この年に初めて、日本で子どもの貧困がマスメディアや政策論議の机上にのった、という意味で」「いわば、「子どもの貧困の発見の年」といってよい。」と述べています。*4
東日本大震災で、一時的に世の中の関心は、子どもの貧困から離れましたが、その後は国会でも論議されるようになって、議員提案の「子どもの貧困対策の推進に関する法律案」が、2013年に衆参両院において全会一致で可決、成立することとなりました。
(2) 法の目的
その後、一部改正された子どもの貧困対策の推進に関する法律(以下、「子どもの貧困対策推進法」または「法」と言います。)は、その目的を、第1条で、
この法律は、子どもの現在及び将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう(中略)子どもの貧困対策を総合的に推進することを目的とする。
と規定しています。
私は、この第1条の「子どもの現在及び将来がその生まれ育った環境によって左右されることのない」ことは、人間社会の最も基本に置くべき価値観、思想のうちの一つであると考えます。
(3) 法の構成
子どもの貧困対策推進法は、子どもの貧困対策に関する大綱の策定、都道府県・市町村における子どもの貧困対策を推進するための計画の策定(努力義務)、教育・生活の安定・就労・経済的な支援のための必要な施策を講じること、子どもの貧困対策会議の設置について規定した全部でわずか16か条の短い法律です。
具体的な施策、事業を規定するものではありませんので、法ができたからと言って、子どもの貧困が改善されるわけでは全くありません。
しかし、法の冒頭に「子どもの現在及び将来がその生まれ育った環境によって左右されることのない」ことが掲げられたことには、素直にうれしく思います。
3.貧困の連鎖を断ち切る
生活保護世帯における大学進学率等
子どもの貧困対策に関する大綱(以下、「大綱」)には、関係施策の実施状況や対策の効果等を検証・評価するため、子どもの貧困率を含め、30項目を超える「指標」が設定されています。
また、大綱の「子供の貧困対策に関する基本的な方針」のトップには、「貧困の連鎖を断ち切り、全ての子供が夢や希望を持てる社会を目指す。」ことが挙げられています。
生活保護世帯で育った子どもたちが、成人して、なお生活保護を受給するということは、貧困が連鎖するということになります。
したがって、生活保護世帯に属する子どもに関する、次の3つの指標が、いちばん最初に置かれています。
93.7% [一般世帯 99.0% *6 ]
4.1% [一般世帯 1.4% *8 ]
36.0% [一般世帯 76.1% *10 ]
これを見ますと、まだまだ、一般世帯(保護世帯という限定のない世帯)との差は大きいものがあります。
特に、③の大学等進学率は半分以下です。
一般的には、学歴と所得は比例していますので、保護世帯で育った子どもたちのうちには、成人した後の就職や所得の状況において、厳しい状況に遭遇するものも少なくないことが想像されます。
彼ら、彼女らの未来のために制度が充実すること、彼ら、彼女らが厳しい状況に臆することなく、力強く進んでいってくれることを切に願います。
4.さいごに
(1) 大学・大学院までの教育費を完全無料に
貧困の連鎖を断ち切るためには、生まれた家庭が裕福でも、貧しくても、親の経済状況には関係なく、同じように勉強できる、希望に応じて進学できることが重要です。
わが国においては、まだまだ法の目的を達するまでには遠い状況ですが、大学・大学院までの教育費を完全無料化するなど、思い切った施策が必要だと考えます。
(2) 指標には目標数値を
大綱に、30項目を超える具体的な指標を掲げてあることは、たいへん良いことだと思います。
ただし、本来であれば、現況の数値のみではなく、目標数値も書き込むべきだと思います。
そうすることで、指標設定の目的である施策の実施状況や対策の効果等を検証・評価することができるようになるのではないかと考えます。
今回は、子どもの貧困率と子どもの貧困対策推進法について、お伝えしました。
今日も、拙い文章をお読みいただきありがとうございました。
(2020.08.01)
*1:この調査自体は、毎年実施されていますが(2020年は中止)、「貧困」に関する調査は、3年ごとの大規模調査の時に実施されます。そして、2019年は大規模調査年でした。
*2:17歳以下の子ども全体に占める、貧困線(等価可処分所得の中央値の半分)に満たない17歳以下の子どもの割合をいう。
*3:阿部彩「子どもの貧困-日本の不公平を考える」(岩波新書。2008年)
*4:阿部彩「子どもの貧困Ⅱ-解決策を考える」(岩波新書。2014年)
*5:中学校卒業者総数のうち、高等学校、高等専門学校又は専修学校の高等課程の入学した者の数の占める割合
*6:文科省「平成30年度学校基本調査(確定値)の公表について」
*7:高等学校等及び高等専門学校の4月の在籍者総数で、その年の翌年3月までに中退した者の数を除したもの
(厚生労働省)
*8:文科省「平成30年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」
*9:高等学校等の卒業者数のうち、大学、短期大学、専修学校(専門課程又は一般課程)又は各種学校への進学した者の割合(厚生労働省)
*10:上記の脚注6に同じ。