政府の「標準世帯」は時代遅れ! 現状を反映した見直しが必要。
こんにちは。
1.「標準世帯」は、いまや標準ではない
(1) 日経新聞「社説」など
7月26日付(電子版は7月25日)の日経新聞の社説は、「夫婦・子2人を標準と思い込んでいないか」との見出しで、わが国における社会保障などの政策や制度の前提になっている「標準世帯」が現実に合っていないことから、すみやかに改めるよう求めています。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61919080V20C20A7SHF000/
ネットを見ますと、これまでも、このことについては多く指摘されてきています。
●大和総研
総世帯数の5%にも満たない「標準世帯」(2018年07月10日)
https://www.dir.co.jp/report/column/20180710_010074.html
●東洋経済オンライン
「夫婦と子の家族」は今や3割弱しかいない現実 2040年には単身世帯の構成比が約4割になる」(2019年7月9日)
https://toyokeizai.net/articles/-/290175
(2) 家計調査の標準世帯
この「標準世帯」は、総務省の家計調査で、「夫婦と子供2人の4人で構成される世帯のうち,有業者が世帯主1人だけの世帯」を「標準世帯」と定義したことが始まりのようです。
しかし、それは、昭和40年代のことで、確かにその当時は、夫婦と子2人の世帯(有業者1人)が、世帯構成で最も高い割合を占めていましたが、それは「昭和」の話です。
政府は、平成を経て、令和となっても、昭和の時に決めたことをかたくなに守っているようです。
日経新聞の社説でも、「日本で夫婦・子世帯が典型的な標準だったのは、1960年代の高度成長期だろう。」と書かれていました。
2.実態はどうなっている?
(1) 世帯構造の変化
国民生活基礎調査結果をまとめています、厚労省の「グラフでみる世帯の状況」を見てみますと、夫婦と子からなる世帯そのものが減少していることがはっきりしています。
(%) | ||
1986年 | 2018年 | |
単独世帯 | 18.2 | 26.9 |
夫婦のみの世帯 | 14.4 | 23.7 |
夫婦と未婚の子のみの世帯 | 41.4 | 29.5 |
ひとり親と未婚の子のみの世帯 | 5.1 | 7.3 |
三世代世帯 | 15.3 | 5.9 |
夫婦と子の世帯が減少し、単独世帯と夫婦のみ世帯の増加が顕著です。
夫婦と子(2人に限らない)からなる世帯は、3割にも満たない状況です。
上記の大和総研の記事によりますと、4人世帯(有業者1人)の標準世帯の割合は、2017年時点で4.6%にしか過ぎないとされています(国勢調査と家計調査から大和総研が推計)。
(2) 未婚率の推移
(%) | ||||
1985年 | 2000年 | 2015年 | 2030年 | |
男性 | 4.3 | 12.6 | 23.4 | 28.0 |
女性 | 3.9 | 5.8 | 14.1 | 18.5 |
2015年までは実績値、2030年は推計値。 |
未婚率の上昇は、単独世帯の増加につながります。
これらのデータを見ますと、わが国の世帯のかたちが大きく変化していることは明々白々です。
それなのに、政府はなぜ、今や5%にも満たない世帯類型を、政策上の標準世帯としているのでしょうか。
屁理屈ではない、国民が納得できる説明が欲しいところです。
その説明がないのであれば、わが政府は「無能」ということになります。
3.年金制度
(1) 財政検証
日経の社説は、「この変化をとらえていない制度の典型が年金である。」と述べています。
年金制度における、5年ごとの年金財政の現況と見通し(財政検証)は、人口の変動(出生、死亡)、経済状況(物価、賃金等)、労働力人口等の変化をいくつかのケースに分けて仮定して、そのケースごとに将来のモデル年金額の所得代替率がどの程度になるかということを検証しています。
そして、「モデル年金」は、「夫が厚生年金に加入して平均的な男子賃金で40年間就業し、その配偶者が40年間にわたり専業主婦の夫婦に2人の基礎年金と夫の厚生年金の合計額」*2
とされています。
(2)所得代替率
所得代替率は、次のように計算されます。
所得代替率 =(夫婦2人の基礎年金+夫の厚生年金)/現役男子の平均手取り収入額
2019年時点では、こうなっています。
61.7%=(13.0万円+9.0万円)/35.7万円 *3
(3) 専業主婦世帯と共働き世帯
以上から、年金制度においては、夫婦のうち有業者1人の専業主婦世帯をモデル世帯(標準世帯)としていることがわかります。
それでは、その専業主婦世帯の実情を確認してみたいと思います。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の「早わかり グラフで見る長期労働統計」の「図12専業主婦世帯と共働き世帯」
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0212.html
を見ますと、2つの世帯の数は、1980年から現在までに大きく変化して、2000年あたりで交差するきれいな「X」の形をしています。
統計表からデータを抜粋してみます。
(万世帯) | ||||
1980年 | 2000年 | 2019年 | ||
専業主婦世帯数(※1) | 1,114 | 916 | 575 | |
共働き世帯数(※2) | 614 | 942 | 1,245 | |
※1 専業主婦世帯:男性雇用者と無業の妻からなる世帯 | ||||
※2 共働き世帯:雇用者の共働き世帯 |
1980年には、専業主婦世帯が共働き世帯の2倍弱でしたが、今では全く逆転して、共働き世帯の方が専業主婦世帯の2倍以上になっています
(4)少数者の専業主婦世帯をモデルにした財政検証に意味があるか?
政府は、年金額について、所得代替率50%の維持を政策上のメルクマークとしています。*4
そのため、「所得代替率が50%を下回ると見込まれる場合には、給付水準調整の終了その他の措置を講ずるとともに、給付及び負担の在り方について検討を行い、所要の措置を講ずる」こととされています。*5
この年金の財政検証において、基準とされている所得代替率が、いまなお「専業主婦世帯」を「標準世帯」として扱っていることはおかしいのではないかというのが、日経新聞の社説の論調ですが、私もまったくその通りだと思います。
いまの財政検証は、一部の人たちにしか役に立たず、多くの人たち、単独世帯や共働き世帯にとっては検証になっていないということです。
せめて単独世帯や共働き世帯にとっての所得代替率を示さないことには、財政検証は意味のないものになってしまいます。
(5)世帯構成の現状を反映した財政検証を
上記(2)のモデル年金の所得代替率から、2019年度時点の単独世帯と共働き世帯の所得代替率を単純に計算してみますと、
単独世帯 (6.5万円+9万円)/35.7万円=43.4%
共働き世帯 (13万円+18万円)/35.7万円=86.8%
これを見ますと、世帯構成によって、所得代替率の計算式も再考する必要があるように思われます。
一律に、将来の年金額を「現役男子の平均手取り収入額」で除した所得代替率が果たして意味があるのかどうか……。
いずれにしましても、専業主婦世帯をモデル世帯としての財政検証は多くの国民にとってあまり意味がありませんので、世帯構成の現状を反映した所得代替率なり、財政検証なりについて検討する必要があると考えます。
今回は、政府は、すでに標準ではない世帯を「標準世帯」としていることを見直すべきではないはないかということをお伝えしました。
今日も、拙い文章をお読みいただきありがとうございました。
(2020.08.08)