年金財政とGPIFの役割について
こんにちは。
前回は、GPIFの昨年度の運用実績についてお伝えしました。
今回は、年金財政におけるGPIFの役割について考えてみたいと思います。
1.GPIFとはいったい何?
GPIFは、正式名称を年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund)と言います。
厚生年金保険料、国民年金保険料の一部を預かって(寄託金)、それを証券投資によって運用し、収益金を年金の給付にあてることで、年金財政に長期にわたって貢献することが役割です。
(運用の実績は前回ブログを見てください。)
◇共済組合等
厚生年金の第2号被保険者(国家公務員)、第3号被保険者(地方公務員)、第4号被保険者(私立学校教職員)に係る保険料の積立金の運用は、GPIFではなく、それぞれの共済(国家公務員共済組合連合会、地方公務員共済組合連合会、日本私立学校振興・共済事業団)が行っています。
2.年金財政のしくみ
(1) 2004年の年金法改正による180度の方針転換
年金制度は、年金法の2004年(平成16年)改正によって、給付と負担の考え方が大きく変わりました。
それまでは、年金の給付額に見合って保険料を設定していましたが、2004年改正によって、保険料の上限*1を決めて、その範囲内で給付を行うという180度の方針転換となりました。
(2) 財政検証と100年安心年金
2004年改正の中で、政府は、少なくとも5年ごとに年金制度に係る「財政の現況及び見通し」を作成しなければいけないこととされました。
これが、いわゆる財政検証です。
また、年金財政は、おおむね100年間にわたって年金財政の収支の均衡を図ることとされました(有限均衡方式)。
これが、当時よく言われた「100年安心年金」です。
この100年間を「財政均衡期間」といいます。
財政均衡期間の終了時点、つまり100年後に、必要な年金積立金(年金給付額の1年分程度)を保有することを目途としています。
(3) 調整期間とマクロ経済スライド
財政均衡期間の中で、年金財政の状況が厳しい場合には、年金給付額を調整することとされました。
この年金給付額を調整(つまりは額の抑制)する期間を「調整期間」と言い、2005(平成17)年度がその開始年度となりました。
年金給付額を調整するしくみが、いわゆる「マクロ経済スライド」です。
年金の給付額は、賃金と物価の変動に応じて改定されるしくみですが、マクロ経済スライドが導入されている期間においては、それに加えて、[a]公的年金全体の被保険者数の増減、及び[b]平均余命の伸びも勘案されます。
この[a]に[b]を乗じたものがスライド調整率です。
[a]は、年金受給者は年々増加していくのに、年金の支え手(年金保険料の支払者)である労働力人口が減少していくことへの対応です。
当初は、0.6%程度のマイナスが想定されていましたが、徐々にマイナス幅が縮小し、最近は、高齢者の就労人口が増加していることから、プラスになっています。
[b]は、マイナス3%に固定されています。
3.年金財政におけるGPIFの役割
(1) 調整期間の終了時期?
GPIFによる年金積立金の運用が非常にうまくいけば、マクロ経済スライドが実施される調整期間も早く終わることになります。
運用がうまくいかなければ、調整期間はどんどん延長されます。
実際は、GPIFの運用成績とともに、経済成長率、合計特殊出生率などの要因が関係します。
いつ調整期間を終了するかは、5年ごとの財政検証によりますが、当分は、マクロ経済スライドは続くと思っていたほうがよいでしょう。
(2) 当面は、運用収益を年金に活用
また、当初は、運用益(収益)のみを年金財政に活用していき、一定期間後(おおむね50年後以降か?)においては、積立金原資を少しずつ取り崩していく計画になっています。
そして、財政均衡期間の終了時点では、年金給付額の1年分程度を残しておく予定です。
GPIFの運用資産は、およそ150兆円、3つの共済の運用資産がおよそ20兆円で合計170兆円。
一方、現在の年金給付額はおよそ55兆円ですから、現状では3年分程度の積立金があることになります。
4.基本ポートフォリオの見直し
GPIFのこれまでの収益累積額57.5兆円(インカムゲイン含む)は、ちょうど年金給付額の1年分に相当する金額です。
また、2019年度の1年間の運用損失8.3兆円は、年金給付額の約15%(2か月分弱)に相当します。
GPIFは、運用目標(運用収益率=賃金上昇率+1.7%)、昨年の年金の財政検証、及びこれまでの運用実績から、今回、基本ポートフォリオ(資産構成割合)を、下のように見直しました。
なお、3つの共済も、GPIFと同じポートフォリオを採用しています。
5.GPIFの運用について
(1) 積立金は、年金保険料。1円も無駄にできない。
GPIFは、世界中の主要な企業の株式に投資している世界最大の投資機関と言われます。
一部の自己運用を除けば、専門の運用機関に委託しています。
受託している運用機関は、プロ中のプロの集まりです。
GPIFのホームページには、受託運用機関ごとの運用資産額、直近5年、同3年、同1年の運用実績も公表されています。
2019年では、これらの運用手数料に319億円を支払っています。
GPIFが運用する資産の原資は、国民が納付した年金の保険料(掛金)です。
1円たりとも無駄にできるものではありません。
変動の大きい株式への投資に対して、批判的な意見があることも当然だと思います。
リーマンショック、今回のコロナ・ショックのように、大切な資産に損失を出すようなことがあればなおさらです。
(2) 金庫に眠らせておくわけにもいかない。
しかし、だからと言って、国民が納付した保険料のうち給付に回らなかったものを、金利ゼロで金融機関に預けたり、政府の金庫にじっと眠らせておけばいいというものでもありません。
今は、物価もあまり上がっていませんが、日銀の目標のとおり、年率2%で物価が上がっていけば、どんどん国民の資産は目減りしていきます。
やはり、慎重に、安定的に、かつ効率的に長期運用するということにならざるを得ません。
(3) 赤字について
昨年の運用資産の赤字は、その時点での評価額が減ったもので、積立金そのもの(現金)が無くなってしまったわけではありません。
3月末以降、株式相場は上昇していますので、今時点では、評価損失額はかなり少なくなっていると思います。
NASDAQは、コロナ前の値を超えています。
ですから、運用損失に対して、過度に心配する必要はありません。
長期的な視点から見ていけばよいと思います。
ただ、だからと言って、短期的には損失を出しても構わないということでもありません。
市場の変動率を下回るような運用成績(収益率)は、やはり許されないと思います。
年金受給者の一人として、また国民の一人としては、可能な限り、損失を出さず、収益を上げるような運用を期待します。
(4) 不祥事、スキャンダルは最悪
運用資産の巨大さを考えますと、運用における不適切事案、またGPIFの組織におけるスキャンダルを恐れます。
じつは、GPIFの理事長、理事をめぐって、スキャンダルが起きていて、今春、理事長が交替しています。
👇東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net/articles/-/315284
真相はわかりませんが、まったく年金積立金を運用する組織にあるまじきことです。
(5) 国民との信頼関係
今回のスキャンダルは、世間的な話題とはなりませんでしたが、それはGPIFという存在が、一般の国民に知られていないからだと思います。
GPIFは、国民のお金(年金の保険料)を預かって管理運用するという重大な役割を担っているところですので、国民からの信頼が重要です。
GPIFは、国民との信頼関係を築くことに努力すべきではないでしょうか。
2回にまたって、GPIFについてお伝えしました。
今日も、拙い文章をお読みいただきありがとうございました。
(2020.07.25)