【全世代型社会保障検討会議】②フリーランスの保護について
こんにちは。
前回は、5月22日開催の全世代型社会保障検討会議に提出されました資料1「フリーランス実態調査結果」についてお伝えしました。
今回は、それを踏まえて、また同資料3「論点メモ」を参照しながら、フリーランスの保護の観点から少し考えてみたいと思います。
1. トラブル防止対策
(1) 取引条件等の書面交付の厳格化
実態調査で、37.7%の人が「トラブルを経験したことがある」と回答し、トラブル経験者における取引先からの書面の交付状況については、「受け取っていない」29.8%、「受け取っているが、取引条件の明記が不十分である」33.3%という結果でした。
◆下請法
このことから、まずは取引条件等に関して書面交付を厳格にする必要があると思います。
下請代金支払遅延等防止法(以下、下請法)第3条には、
親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、(中略)給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。
と規定されていて、契約時の書面交付は法的義務(違反した場合、50万以下の罰金)です。
しかし、同法第2条第7項で、親事業者について、資本金1,000万円を超える法人と定義されていますので、資本金1,000万円以下の事業者は、下請法の対象とならず、書面交付義務がありません。
◆資本金1,000万円以下
実態調査では、資本金1,000万円以下の事業者と取引したことがある人が41.6%あり、また、資本金1,000万円以下の事業者との取引から得られる売り上げが直近1年間の売り上げの半分以上である人が36.2%あります(90%以上が19.9%も)。
したがって、これらは書面交付の法的義務のない取引になってしまいますので、すべての契約において書面交付を義務付けるような法改正が必要だと考えます。
何らかの取引、契約をする際には契約書等の書面を交付するのは一般的ではないでしょうか。なにゆえ資本金1,000万円以下の事業者を外してあるのか理解できません。
(2) 取引条件の一方的変更の禁止
取引先とのトラブルの内容では、「報酬の未払いや一方的な減額があった」(26.3%)、「使用や作業時間・納品日を一方的に変更された」(24.4%)も多くなっています。
強い立場による不当な行為です。
これについて、独占禁止法(優越的地位の濫用)や下請法上の扱いとして、今後、検討されるようです。
(3) 報酬不払い、遅延の禁止
取引先とのトラブル内容で、条件の不明示の次に多かったのは「報酬の支払いが遅れた・期日に支払われなかった」(28.8%)です。
これについては、下請法第4条の2で、遅延利息の規定(業務完了後60日を経過した日から支払い日までの期間、年率14.6%)がありますが、これに反しても罰則がなく実効性がどうなのかいうことと、(1)と同じく、親事業者の規模要件の問題があります。
2. 労働法の適用について
(1) 社会保険関係
フリーランスは、基本的に個人事業主ですから、社会保険(健康保険、厚生年金)、雇用保険、労災保険の適用がありません。
生活面でのリスクに対するセーフティネットが、雇用労働者に比べて非常に不十分な状態です。
これは、一般の自営業も同じで、被扶養配偶者でない限り、医療は国民健康保険(国保)、年金は国民年金の加入者となります。
公的年金も2階建ての1階部分のみとなり、受給時の年金額も少なくなりますので、自分で私的年金に加入する必要が出てきます(その余裕があれば、の話ですが)。
雇用保険もありませんので、仕事を失った時の基本手当もなければ、育児や介護で仕事を休むときの育児休業給付金、介護休業給付金等もありません。
実態調査で、1割の人が「病気やけがで仕事を中断したことがある」と回答していますが、その場合でも、労災保険から休業補償給付等は支給されませんし、障がい者となった場合の障害補償給付等もありません。
(2) 実態は労働者:名ばかりフリーランスは是正が必要
フリーターという形で仕事をしていたとしても、実態としては、労働者である場合があります。
実態調査では、36.8%の人が「業務の内容や遂行方法について、具体的な指示を受けている」と回答したのをはじめ、「勤務場所や勤務時間が指定されている」(16.0%)、「報酬が作業に要した時間数に基づき計算されている」(12.9%)、「具体的な仕事の依頼、業務従事の指示を断ることができない」(10.5%)人もいることがわかりました。
全世代型社会保障検討会の資料3「論点メモ」では、
フリーランスとして業務を行っていても、実質的に発注事業者の指揮命令を受けて仕事に従事していると判断される場合など、現行法上「雇用」に該当する場合は、契約形態にかかわらず、労働関係法令が適用されることを明確化してはどうか。
とされており、今後、検討されることになると思います。
契約形態はフリーランスでも、実態は雇用という「名ばかりフリーランス」というケースは早急に是正していく必要があると考えます。
スーパーホテルと業務委託契約のうえ、支配人、副支配人として働いていた人が、実態は「裁量の全くない24時間365日働かせ放題の奴隷労働」だとして、未払いの残業代など計約6200万円を求め、今年5月28日、東京地裁に提訴しました。👇
(3) 新しい制度も
フリーランスとしての契約であっても、実態としては労働者である場合は、現行の労働法規を積極的に適用していくことは当然です。
たとえフリーターとしても、「働く」ということでは雇用者(労働者)と変わりありませんので、一律に労働法規の適用対象外とするのではなく、指揮命令の態様、程度に応じて、現行法規の柔軟な(又は拡大)適用、あるいは何らかの新しいセーフティネットのしくみを検討していく必要があるのではないかと思います。
(4) 労働組合を結成:ウーバーイーツ
ウーバーイーツの配達員として仕事をする人たちが、昨年10月に労働組合「ウーバーイーツユニオン」を結成しました。
労働組合法上の「労働者」の概念は、労働基準法等の概念よりも広く認められます。
ウーバーイーツユニオンは、会社側に対して団体交渉を申し入れましたが、会社側は、配達員は、労働組合法上の「労働者」ではないとして交渉を拒否しています。
それに対して、ウーバーイーツユニオンは、3月16日、会社が団体交渉に応じないのは不当な団交拒否に当たるとして、労働組合法に基づき、東京都労働委員会に救済を申し立てました。
ウーバーイーツは、一方的な報酬改定も行っています。
配達員なくして事業展開はできませんので、速やかに配達員を労働組合法上の労働者と認めて団体交渉に応じるべきです。
3.さいごに
自由な時間、自由な場所、自由な働き方を求めて、今後、フリーターとしての働き方は、増加していくことは間違いないでしょう。
これは、日本ばかりではなく、世界的な趨勢で、私も、組織に縛られない多様な働き方、生き方として、前向きにとらえるべき変化ではないかと思います。
実態調査でも、フリーランスの8割は満足していると回答しています。
しかし、フリーランスとして成功している人がいる一方で、仕事の内容や方法に具体的な指示を受けていたり、時間・場所まで決められている場合もあり、まさしく「名ばかりフリーランス」の実態もあります。
特に、仲介事業者(ネット上のプラットフォーマー)を通じて仕事を受けるケースも増えていて、上記のウーバーイーツのケースもそうですが、トラブルもありますので、プラットフォーマーに対する規制なども考える必要があるのではないかと思います。
今後、フリーランスの保護に関して、いろいろ検討されていくと思いますが、働く人を大事にする社会になるようなしくみを強く期待したいと思います。
また、フリーランスとしての働き方を良い状態で維持するためには、個人としての能力、スキルを高めることも同時に必要だと感じます。
収入を得るということは、誰かが仕事に対して報酬を支払ってくれるということですから、「顧客あればこそ」ということがベースにあります。
顧客のニーズに応え、顧客の満足を得られるような能力、スキルを磨いていくことが不可欠になります。
今回は、少し長くなってしまいましたが、フリーランスとしての働き方における問題、課題について考えてみました。
今日も、拙い文章をお読みいただきありがとうございました。
(2020.06.06)(一部修正 2020.06.21最終)