コロナ禍のなか、パワハラ防止法が6月施行
こんにちは。
労働施策総合推進法が改正されて、パワーハラスメント防止対策が法制化され、6月1日から施行されます。
今回は、このパワハラ防止法について、概要を確認したいと思います。
1.相次ぐパワハラ自殺事件
以前、このブログで取り上げました、働き方改革を促進する一つのきっかけとなった電通の高橋まつりさん事件では、過度の長時間労働ばかりではなく、セクハラ、パワハラについても指摘されています。
また、今年1月、役員のパワハラが原因で、楽器大手のヤマハの男性社員が自殺しました。
役員は退任しましたが、男性社員は戻ってきません。
昨年8月、三菱電機の男性新入社員の過労自殺に関し、警察は30代男性社員を自殺教唆容疑で書類送検しました。
このほかにも、三菱電機では、パワハラや長時間労働で社員が自殺する事件が相次いでいるということです(4月27日付日経新聞)。
2.パワハラの実態
都道府県労働局への相談は、7年連続で「いじめ・嫌がらせ」に関する相談の割合が一番高くなっています。
平成30年度では、「いじめ・嫌がらせ」相談の割合は25.6%(前年度比2.0ポイント増)、相談件数は82,797件(前年度比10,730件増)で、毎年増加しています。
平成28年度に実施された、厚労省の「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」においても、従業員向けの相談窓口で従業員から相談の多いテーマは、パワーハラスメント(32.4%)が最も多くなっています。
「過去3年間にパワーハラスメントを受けたことがある」と回答した従業員は32.5%で、4年前の前回調査時の25.3%から7ポイント余り増加しています。
また、連合が2019年に実施した「仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査」でも、「職場でハラスメントを受けたことがある」全体の38%、上司からのハラスメントで多いのは「脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言などの精神的な攻撃」、同僚からハラスメントで多いのは「隔離・仲間外し・無視などの人間関係からの切り離し」、ハラスメントを受けた人の54%が「仕事のやる気喪失」、22%は「心身不調」、19%が「退職・転職」、ハラスメントを受けた20代の3割近くが離職を選択など、職場の実態が明らかとなっています。
3.法制化の内容
(1) パワハラの定義
次の3つをすべて備えている場合をパワーハラスメントということが明記されました。①優越的な関係を背景とした、②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、③就業環境を害すること。
(2) 事業主に、パワハラ防止のため、雇用管理上の措置を講じることが義務化されました。
[雇用管理上の措置]
①社内方針の明確化、周知・啓発
②苦情などに対する相談体制の整備
③被害を受けた労働者へのケアや再発防止、など。
(これは、現行のセクハラ防止のための措置義務と同じ内容です。)
(3) 厚労大臣による「指針」の策定
厚労省告示「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
(4) 紛争解決手続き
都道府県労働局長による紛争解決援助、紛争調整委員会による調停(行政ADR)の対象とするとともに、措置義務等について履行確保(助言、指導、勧告等)のための規定を整備
(5) 中小企業
2年間は努力義務、令和4年4月1日から措置義務
4.指針における類型ごとの該当例
上記の指針には、6つの類型ごとに、パワハラに該当すると考えられる例、該当しないと考えられる例が記載されています。(以下、抜粋)
(1) 身体的な攻撃(暴行・傷害)
・該当する例 ① 殴打、足蹴りを行うこと。 ② 相手に物を投げつけること。
・該当しない例 ① 誤ってぶつかること。
(2)精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
- 該当する例 ① 人格を否定するような言動を行うこと。② 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと。
- 該当しない例 ① 遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一程度強く注意をすること。
(3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
- 該当する例 ① 自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間 にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること。
- 該当しない例 ① 新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施すること。
(4)過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
- 該当する例 ① 長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる こと。
- 該当しない例 ① 労働者を育成するために現状よりも少し高い レベルの業務を任せること。
(5)過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
- 該当する例 ① 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること。 ② 気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと。
- 該当しない例 ① 労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減すること。
(6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
- 該当する例 ① 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること。
- 該当しない例 ① 労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行うこと。
厚生労働省は、精神障害の労災認定基準に「パワーハラスメント」を新設する方針を決めた、との報道がありました。
精神障害の労災基準に「パワハラ」新設…6月適用へ(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース
5.さいごに
私自身もパワハラについては、現役のときの苦い経験があります。
また、上司による過度の叱責、長時間労働の指示等によって、体調を崩した職員の例はいくつか聞き知っています。
どこの職場でも、残念ながら日常茶飯に起きていることであって、私自身を含め、わが国の人権意識の低さが露呈しているとも言えます。
一人ひとりの問題ではありますが、そう言っていてはいつまでも改善しませんので、今回、事業主に措置義務を課すパワハラ防止の法制化になったものと考えます。
これが絵に描いた餅にならないよう、管理監督者の研修を強化するなど、事業所全体の人権意識の高揚に努めなければいけません。
また、労働組合の積極的な関与も期待したいと思います。
とにかく、今回の法制化が、すべての労働者がパワハラ、セクハラの被害を受けることなく、職場において人権が尊重されるような環境づくりに向けた確実な一歩となるよう心から期待したいと思います。
今回は、6月からの施行を前に、パワハラ防止法について確認しました。
今日も、拙い文章をお読みいただきありがとうございました。
(2020.05.19)(一部修正 2020.06.29最終)