副業・兼業の増加に対応する労働法制の改正方向
こんにちは。
今回は、近年、増えてきています副業・兼業に対応するための労働法制の改正方向について、お伝えしたいと思います。
- 1.副業・兼業の状況
- 2.労災保険の現在のしくみ
- 3.労災保険の改正点① 保障給付の額:給料の額を合算する。
- 4.労災保険の改正点② 長時間労働による労災認定:労働時間も合算する。
- 5.雇用保険の改正点① 加入の要件緩和:労働時間の合算
1.副業・兼業の状況
第83回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会資料を見ますと、2017年時点で、385万人(雇用者全体に占める割合6.5%)の人が副業を希望していて、そのうち、128.8万人(同2.2%)が実際に副業で働いているとのことです。
いずれも、右肩上がりで増加していて、5年前に比べますと6、7割増加しています。
国としても、副業・兼業を容認・促進する方針であり、モデル就業規則を改定するなどの対応を行っているようです。
その流れの中で、現行では、必ずしも副業・兼業に対応していない労災保険、雇用保険における対応策についても、労働政策審議会等において、一定の方向性が示され、関係法律の改正案が本年通常国会に提出され、2020年度内にも施行される方向です。
2.労災保険の現在のしくみ
例えば、労働者が、仕事中にけがをして、就労不能となって、会社等を休んで給料が出ない場合には、労災保険から休業補償として、給料の額の100分の60が支給されます。(実際は、これに休業特別支給金100分の20が加算されます。)
そして、複数の事業所等で仕事をしている副業・兼業労働者の場合には、保障の額は、けがをした事業所等における給料のみの額で計算されることになっています。
ある人が、給料20万円の事業所で働きながら、月5万円程度のアルバイをしていて、アルバイト先で仕事中にけがをして、入院又は自宅療養するような場合には、休業補償の額は、5万円のみが計算の基礎になります。
これでは、労働者の生活保障には不十分で、労働者が労働災害を受けたために生活に困窮することになってしまいます。
※労働時間のいかんにかかわらず、「労働者」には労災保険が適用されるのが、原則ですが、個人経営の農業、漁業、林業では、5人未満の労働者を使用している小規模事業所など、一部の事業所は労災保険が適用されない場合があります。
3.労災保険の改正点① 保障給付の額:給料の額を合算する。
労働災害に遭った労働者が生活に困らないよう、改正案では、複数の事業所で働く労働者の場合は、休業補償等の額の計算において、その人が働く複数の事業所の給料を合算することになりました。
上記の例で言えば、5万円のアルバイト先でけがをしたとしても、給料25万円として計算されることになります。
労働者にとって、これは大きな改善であると思います。
なお、通勤災害についても、これに準じた取り扱いがされることになります。
4.労災保険の改正点② 長時間労働による労災認定:労働時間も合算する。
労働災害には、けがのように、業務との関係がはっきりわかるケースばかりではなく、長時間労働によるものもあります。
複数の事業所で仕事をしている場合には、どちらの業務が原因というのは判断のしようのないことが想定されます。
「脳血管疾患及び虚血性疾患等の認定基準」により、1月の時間外労働時間100時間、複数月の平均80時間超といういわゆる「過労死基準」が定められていますが、複数事業所で働く副業・兼業労働者の場合には、この時間外労働時間数を合算することになりました。
過労死を防ぐなど、労働者の健康管理上、当然の改正と考えます。
5.雇用保険の改正点① 加入の要件緩和:労働時間の合算
雇用保険は、現在、週所定労働時間が20時間以上あることが、加入の要件になっています。
2つ以上の事業所で雇用されている場合には、「その者が生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける一の雇用関係についてのみ、被保険者となる」とされています。
要するに、給料の多い方だけで週20時間以上働くことが必要ですが、これについて、65歳以上の高年齢労働者に限って、週所定労働時間5時間以上の事業所2つまでを限度に、合わせて週所定労働時間が20時間以上となる場合に、加入を認めることとする方向です。
なお、これは試行とし、施行後5年をめどに検証することになっています。
例えば、週所定労働時間15時間の事業所と6時間の事業の2つを兼業している場合、現在は、雇用保険に加入できませんが、今後は、65歳以上の場合には加入できることになります。
高年齢者の多様な働き方に対応しようとするものです。
上記において、2つの事業所で雇用保険に加入している労働者が、そのうちの1つの仕事を辞めた場合(離職)は、辞めた方の事業所の給料の額に応じた高年齢求職者給付金(一時金)を支給することになるようです。
まあ、それは妥当ですね。もう1つはまだ仕事を辞めていませんから。
以上、副業・兼業をする労働者の増加に対応すべく労災保険と雇用保険の改正の方向についてお伝えしました。
これはいずれも、労働者にとっては改善点であると思います。
特に、私たち高年齢者にとっては、雇用保険の適用拡大になりますので、働き方の選択が広がることになると思います。
余計なことを
最後に一つだけ余計なことを付け加えますと、労災保険については、労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会で審議され、雇用保険については、労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会で審議されていますが、副業・兼業している労働者を、前者では「複数就業者」と呼び、後者では「マルチジョブホルダー」としています。
同じ厚労省の同じ労働政策審議会で、呼び方がバラバラです。
国民に分かりやすい行政を進めるためには、呼称を統一した方がいいのではないでしょうか。
雇用保険の「マルチジョブホルダー」は、一般の国民に分かりやすいと言えるでしょうか。
今回は、副業・兼業に関する労働法制の改正の方向についてお伝えしました。
今日も、拙い文章をお読みいただきありがとうございました。
(2020.02.29)