【コロナウィルス関連】倒産の場合の未払賃金の立替払制度について
こんにちは。
4月24日付の日経新聞に「中小倒産時の賃金立て替え 支払い最短2ヵ月で」という記事が出ていました。👇
厚労省は、新型コロナウィルス感染拡大による倒産の増加を見据えて、これまで4~5カ月程度かかっていた労働者への支払いまでの期間を、調査員等の人員を2倍に増やして、最短で2か月程度に縮めるという内容の記事です。
これは、労働者にとっては良い対応です。
今回は、この未払賃金の立替払制度について確認しておきたいと思います。
賃金立替払は、労災保険の制度
未払賃金の立替払制度は、労災保険(労働者災害補償保険)のなかの制度になります。
労災保険事業は、保険給付と社会復帰促進等事業の2つに大きく分けられます。
保険給付は、労働者の業務災害、通勤災害に対して、療養(補償)給付、休業(補償)給付、障害(補償)給付、遺族(補償)給付等及び二次健康診断等給付を行うものです。
※業務災害の場合は、例えば療養補償給付と言いますが、これに対して通勤災害の場合は療養給付と言い、「補償」が付きません。このため、療養(補償)給付という表記をしています。これは、労災保険制度が、もともと事業主の労働者に対する補償義務を肩代わりする制度(そのため保険料は事業主が負担)であることから、事業主に補償義務の生じない通勤災害の給付については「補償」の文言がありません。
一方、社会復帰促進等事業は、社会復帰促進事業、被災労働者等援護事業及び安全衛生確保等事業の3つに分けられ、未払賃金の立替払制度は、このなかの安全衛生確保等事業に位置づけられています(労災法第29条第1項第3号)。
制度の要件
この制度は、企業倒産により、賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、未払賃金の一部を立替払する制度ですが、立替払を受けるためには次の要件を満たす必要があります。
(1)使用者(企業側)の要件
- 1年以上事業活動を行っていたこと かつ
- 倒産したこと
倒産は、①法律上の倒産と②事実上の倒産(中小企業のみ)の2つの場合があります。
①は、破産、特別清算、民事再生、会社更生の場合で、破産管財人等に倒産の事実等を証明してもらう必要があります。
②は、中小企業について、事業活動が停止し、再開する見込みがなく、賃金支払能力がない場合で、労働基準監督署長の認定が必要です。
(2)労働者側の要件(退職の時期)
倒産の日(法律上の倒産の場合は裁判所への申立て等の日、事実上の倒産の場合は労働基準監督署への認定申請の日)の6か月前の日から2年の間に退職した者であること。
※例えば、倒産の日が令和2年6月1日とすると、令和2年1月1日から令和3年12月31日までに退職した労働者になります。
立替払の対象となる未払賃金と額
労働者が退職した日の6か月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来している定期賃金(毎月の給料)と退職手当(退職金)のうち、未払となっているものです。
ボーナスは対象にはなりません。
また、未払賃金の総額が2万円未満の場合も対象外です。
立替払の額は、未払賃金の額の8割です。
ただし、退職時の年齢に応じて下図のように上限額が設けられています。
退職日における年齢 | 未払賃金総額の限度額 | 立替払上限額 |
45歳以上 | 370万円 | 296万円 |
30歳以上45歳未満 | 220万円 | 176万円 |
30歳未満 | 110万円 | 88万円 |
請求
労働者は、破産手続開始の決定等がなされた日又は監督署長による認定日の翌日から起算して2年以内に、独立行政法人労働者健康安全機構に対して、立替払の請求を行う必要があります。
独立行政法人労働者健康安全機構
未払賃金の立替払の実際の事務は、独立行政法人労働者健康安全機構が行うこととされています。
同機構は、立替払した分の賃金債権を代位取得し、本来の支払責任者である使用者(企業)に求償することになります。
独立行政法人労働者健康安全機構がどこにあるのか、一般の人はわかりません。
労働者が相談する場所は、労働基準監督署で構いません。
未払賃金の立替払の実施状況
平成 30 年度の立替払の実績 ( )内は、対前年度比。
・企業数は、2,134 件(7.8%増)
うち労働者数30人未満の企業 91.1%
・支給者数は、23,554 人(4.9%増)
うち労働者数30人未満の企業 51.5%
・立替払額は、86 億 9,584 万円(0.4%増)
一人当たり平均立替払額36.9万円
さいごに
日経新聞の記事によりますと、厚労省は、この事業に当たる人員を倍増するとともに予算も増額するとありました。
ただ、その額が当初予算と合わせて94億円ということです。
リーマン・ショックのときは333億円だったとのことですから、まだまだ予算不足という気がします。
それに、事務処理期間についても、従前4~5カ月要していたものを最短2か月程度にするということですが、これも遅いのではないでしょうか。
今回のコロナウィルス感染症による対策のキーワードは「スピード」です。
会社や商店が労働者に賃金を払わないまま倒産したり、急に店を閉めたりしたときの生活保障ですから、さらに期間短縮に向けた取り組みが必要だと考えます。
今回は、コロナウィルス感染拡大に関連して、未払い賃金の立替払い制度について見てみました。
今日も、拙い文章をお読みいただきありがとうございました。
(2020.05.01)(一部修正 2020.07.01最終)