【定年制】かつて、政府が設置した分科会が「定年制廃止」を提案したことがあった!
こんにちは。
ここ数回、わが国の定年制についていろいろ考えてきています。
前回お伝えしましたように、政府は、公務員の定年制延長を内容する法案を今国会に提出しています。
65歳までの高年齢者雇用確保措置によって、民間でも、定年年齢を引き上げる企業は増えてきていますが、定年制そのものを廃止するところはごくわずかですし、定年制を定めていない企業の割合はかえって少なくなってきています。
わが国では、英米のような「定年制は年齢差別」との考え方は、まだまだ浸透しそうにありませんが、かつて、日本において政府が設置した分科会がまとめた報告書のなかで「定年制廃止」について提案したことがありますので、今回は、そのことについてお伝えしたいと思います。
フロンティア分科会報告書
その報告書は、2012(平成24)年7月6日に取りまとめられた「フロンティア分科会報告書」です。
フロンティア分科会は、民主党の野田政権のときに設置されていた「国家戦略会議」*1の第5回会議(2011(平成23)年12月15日)での決定によって設けられたものです。
その設置の趣旨は、
『希望と誇りのある日本』を取り戻し、日本再生を実現するため、我が国が切り拓いていく新たなフロンティアを提示し、中長期的に目指すべき方向性をビジョンとして策定する。
とされていました。
その分科会がまとめて公表したのが「フロンティア分科会報告書」です。
報告書には
フロンティア分科会は、現在の延長線上の2050年の日本の姿とあるべき日本の姿を描き、そこから現在を振り返って(バックキャスティング)、2025年までの方向性を提言するものである。
とも記載されています。
定年制に関する事項は、報告書の本論3「『共創の国』づくりのためになすべきこと」中、<繁栄のフロンティア>分野の「全員参加と新陳代謝の『人財戦略』で生産性を高める」という箇所で、以下のように記載されています(少し長いですが、そのまま引用します。ゴチック表記等は筆者によります)。
報告書の記述内容
企業内人材の新陳代謝を促す柔軟な雇用ルールを整備するとともに、教育・再教育の場を充実させ、勤労者だれもがいつでも学び直しができ、人生のさまざまなライフステージや環境に応じて、ふさわしい働き場所が得られるようにする。具体的には、定年制を廃し、有期の雇用契約を通じた労働移転の円滑化をはかるとともに、企業には、社員の再教育機会の保障義務を課すといった方法が考えられる。場合によっては、40歳定年制や50歳定年制を採用する企業があらわれてもいいのではないか。もちろん、それは、何歳でもその適性に応じて雇用が確保され、健康状態に応じて、70歳を超えても活躍の場が与えられるというのが前提である。こうした雇用の流動化は、能力活用の生産性を高め企業の競争力を上げると同時に、高齢者を含めて個々人に働き甲斐を提供することになる。
報告書について
もちろん、この報告書の内容は、もともと2050年を見据えたビジョンでしたし、その後の解散総選挙で民主党が大敗して政権から降りましたので、具体的な政策に結実することなく、発表されただけで終わった形になりました。
ただ、政府が設置した分科会が正式な報告書の中で、「定年制の廃止」や「40歳定年制」「50歳定年制」に触れたということは「歴史的」な意味はあるかもしれません。
また、「何歳でもその適性に応じて雇用が確保され、健康状態に応じて、70歳を超えても活躍の場が与えられる」ということの意義は、昨今、ますます大きくなってきていることは間違いないことだと思います。
雇用の流動性に耐え得る能力を要する厳しい社会
報告書には「個々人に働き甲斐を提供する」とはありますが、「定年制の廃止」にしても「40歳定年制」や「50歳定年制」にしても、その発想のもとは、生産性の向上による企業競争力のアップということだと思います(民主党政権でしたけど…)。
そのなかで、個々人が働き甲斐を感じるためには、「雇用の流動性」に耐え得るだけの個人としての能力を要するということになるのではないでしょうか。
それは、とても厳しい社会だと思います。
いままでのように、終身雇用というぬるま湯にゆっくり浸っているわけにはいきません。
自らの能力の向上と開発に対する努力が必須になります。
ただし、それがあらたな企業戦士、企業奴隷になることであってはいけません。
労働者としての権利、人としての尊厳が守られたうえでの雇用の流動性である必要があります。
今回は、「定年制の廃止」について記載していたフロンティア分科会報告書についてお伝えしました。
今日も、拙い文章をお読みいただきありがとうございました。
(2020.04.19)