【同一労働同一賃金】6割を下回る基本給は「不合理」:名古屋地裁判決
こんにちは。
今回は、先月28日にありました名古屋地裁判決についてお伝えしたいと思います。
(判決の内容等は、10月29日付日経新聞の記事によります。)
1.最高裁判決
このブログにも書きましたが、「同一労働同一賃金」をめぐっては、先月、5件の最高裁判決がありました。
この最高裁判決は、正規労働者と非正規労働者の労働条件の違いについて、非正規労働者への賞与、退職金の不支給は「不合理とまでは言えない」とし、また、扶養手当、有給の病気休暇等に関する待遇格差については、反対に「不合理で違法」とする内容でした。 www.tanoken65.com
これらは、いずれも個別事案についての判決ですので、事情が異なれば違う判決が出る可能性はありますが、同一労働同一賃金に関する最高裁判決ということでマスコミでも大きく報道されました。
2.名古屋地裁判決
それに比べて、今回の名古屋地裁判決はそこまで大きくは取り扱われていない印象ですが、重要な判決であることに変わりはないと思います。
事案は、名古屋自動車学校を定年退職し、そのまま再雇用の嘱託職員として働いていた2人の労働者が、定年前と同じ仕事に従事したのにも関わらず、基本給が16~18万円から7~8万円ほどに大きく減額されたことは、労働契約法旧第20条*1に違反して不当だと訴えたものです。
これに対して、名古屋地裁は、定年後の基本給は「年功的性格があることから金額が抑制されている若い正社員の基本給すら下回っており、生活保障の観点からも看過しがたい水準」「定年前の6割を下回るのは不合理な待遇格差に当たる」と判断しました。
また、正社員の賞与よりも大幅に下回る一時金、教習時の手当の金額についても不合理と認めて、合計625万円の支払いを会社側に命じました。
3.判決の評価
これに対し、原告側弁護団は、「基本給の格差を不合理と認めた意義は大きい」と評価しているようです。
原告労働者は、判決内容を「成果」と認めながらも、「6割」基準には納得していないようです。
また、東京大学の水町勇一郎教授は、「仕事内容が変わらなければ減額は6割まで、という目安を示した点で画期的」と評価しています。
今回、「6割」という基準は「基本給を6割にしても不合理ではない」とした別の地裁判決との整合性を考慮したのではないかということです。
この事案では、再雇用の際に賃金に関する労使の合意がなかったという事情もあるようですが、正規、非正規間の待遇格差のうち基本給に関しては「6割」というのはひとつの基準になっていくかもしれません。
また、 上記の最高裁判決のうち賞与の額について争った事案の高裁判決で、賞与については「正職員の6割未満は不合理」としていたことも思い出しました。
4.私見:6割でいいか? ジョブ型?
私も、労働者側の訴えを内容として認めたことは良かったと思います。
しかし、同じ仕事なら同じ待遇というのはごく当たり前の話で、「6割」で十分というわけにはいかないと思います。
待遇の格差については、それに対応する仕事内容の差がなければいけません。
判決では「6割」の理由については示していないようです。
今回のコロナ禍においても、非正規労働者の置かれた厳しい状況が伝えられ、企業が非正規労働者を労働量調整の安全弁としていることなどがあらためて明らかになっています。
「あなたは正規、あなたは非正規」と、人を区別することはやめてほしいものだと思います。
やはり、わが国でも「ジョブ型」の雇用形態に移行していくべきでしょうか。
ジョブ型であれば、同じ仕事なら同じ待遇ということがより実現しやすいのでは…。
ジョブ型にもいろいろあるでしょうから、何でもかでも無条件にもろ手を挙げて「ジョブ型」賛成というわけにはいきませんが、その方向を目指すべきではあると思います。
ただ、いまジョブ型を導入し始めているのは大企業中心で、また、ジョブ型は、成果主義と表裏一体でしょうから、いま、中小零細で「非正規」で働く労働者の待遇改善に結び付くかどうかは不透明です。
ジョブ型もまた厳しい労働環境には違いないと思いますが、ただ現在の、まるで身分制のような正規、非正規の区別と差別はどうにかして解消していかなければなりません。
今回は、定年後再雇用労働者に対する基本給をめぐる名古屋地裁判決についてお伝えしました。
今日も、拙い文章をお読みいただきありがとうございました。
(2020.11.07)