【老齢厚生年金の額が減少】③年金が10年間に10%以上減っている要因は?(その1)
こんにちは。
前々回は、「65歳以上」及び「65歳」の平均年金月額が、最近10年間に10%以上減っていることを、前回は、10年後の年金額は、年齢ごとに減少幅が大きく違っていることをお伝えしました。
今回は、年金額の減少の要因について考えてみたいと思います。
- ◆年金額の減少の要因と思われること
- 老齢厚生年金の額の計算式
- 要因① 給料収入(平均標準報酬(月)額)の減少
- 要因② 物価や賃金の変動率による調整、改正(再評価率)
- 要因③ マクロ経済スライドの導入、改正
◆年金額の減少の要因と思われること
① 給料収入(平均標準報酬(月)額)の減少
② 物価や賃金の変動率による調整、改正(再評価率)
③ マクロ経済スライドの導入、改正
(今回は、ここまで)
④ 5%適正化、及びその経過措置としての従前額保障
⑤ 総報酬額制の導入
⑥ 生年月日による乗率の違い
⑦ 特例水準の解消
⑧ 厚生年金の適用拡大
※データとして使いました厚労省年金局「厚生年金保険・国民年金事業の概況」(平成19年度分までは、社会保険庁「社会保険事業の概況」。以下、「概況」)の「老齢厚生年金」には基礎年金が含まれています。従って、本来は老齢基礎年金についても考察すべきところですが、今回は厚生年金(報酬比例部分)を中心に考察していることをお断りいたします。
老齢厚生年金の額の計算式
まず、老齢厚生年金の額はどうやって決まるのかを確認しておきます。
年金額の計算式は、次の(a)と(b)の合計額になります。
(a)平成14年度までの被保険者期間分
平均標準報酬月額×乗率(7.125/1000)×被保険者期間の月数
(b)平成15年度以降の被保険者期間分
平均標準報酬額×乗率(5.481/1000)×被保険者期間の月数
※過去の標準報酬月額と標準賞与額には、最近の賃金水準や物価水準で再評価するために「再評価率」を乗じます。
※この原則の計算式とは別に「従前額保障」の計算式があります。
要因① 給料収入(平均標準報酬(月)額)の減少
計算式を見れば、給料の額(正確には標準報酬月額。平成15年以降は賞与を含む標準報酬額)によって、年金の額が変わることがわかります。
前回まで、平均年金額を確認したときの資料である「概況」には、平成6年度分(平成10年度の「概況」にデータあり)から「標準報酬月額の平均」(「総数」「一般男子」「女子」別。平成15年度分(平成16年度の「概況」)からは「標準賞与額1回あたりの平均」、平成18年度分(平成22年度の「概況」)からは、加えて「一人当たり標準報酬額 (総報酬ベース・年額)」)のデータも掲載されています。
これを見ますと、前年度から減少している年度も多いのですが、増加している年度もあります。
平成30年度の標準報酬月額の平均額は、平成6年度比1.1%プラス、総報酬制が導入された平成15年度比1.1%マイナス、平成20年度比0.6%マイナスになっています。
経済の低迷期で、厚生年金加入者の給料も低迷していたことを窺わせますが、給料を貰う現役時代と年金を受給する高齢期ではかなり時期が離れていますので、このデータだけでは何とも言えないと思います。
ただ、収入・所得に関する他のデータ等を見れば、バブル破裂後の勤労収入が低迷していることは明らかですので、そのことが年金額の減少に寄与していることは間違いないものと考えられます。
要因② 物価や賃金の変動率による調整、改正(再評価率)
年金額の計算においては、その人の平均標準報酬(月)額をそのまま計算するのではなく、
「過去の標準報酬月額と標準賞与額には、最近の賃金水準や物価水準で再評価するために「再評価率」を乗じ」(日本年金機構のホームページから)
ることとされています。
この再評価率は、生年月日に応じて、被保険者期間ごとに決められていて、また、国民年金の改定率に準じて毎年改定されます。
平成20年度に65歳であった人たちの平均年金月額が、10年後の平成30年75歳になったときには10.1%減っていたことを、前回お示ししました。
再評価率の例として、平成20年度に65歳であった人たち(昭和18年度生まれ)の40歳(昭和58年度)、50歳(平成5年度)のときの再評価率を、平成20年度と平成30年度について見てみます。
◆被保険者期間:昭和58年度の再評価率
平成20年度 1.471 → 平成30年度 1.418 (減少率3.6%)
◆被保険者期間:平成5年度の再評価率
平成20年度 1.069 → 平成30年度 1.046 (減少率2.2%)
日本年金機構のホームページにあります再評価率を細かく見る余裕はありませんが、上の例のように、再評価率が改定されることで年金額が減少していることは明らかです。
国民年金の改定率の導入及びその改定が、年金額を抑制するために導入されたものですから、当然と言えば当然の話になります。
要因③ マクロ経済スライドの導入、改正
マクロ経済スライドは、上記の物価、賃金による調整に加えて、公的年金被保険者数変動率と平均余命の伸びでも、年金額を調整しようとするものです。
公的年金被保険者数変動率については、当初マイナス0.6%程度と想定されていましたが、女性、高齢者の労働市場への進出や短時間労働者への社会保険の適用拡大等のため、最近は変動幅が徐々に小さくなり、直近ではプラスに転じています。
平均余命の伸びは、マイナス0.3%で固定されています。
マクロ経済スライドは、物価、賃金の変動による調整率がプラスになった場合にしか実施されないため、これまで平成27年度、31年度、令和2年度の3回のみの発動です。
しかし、これが年金額の減少の要因になっていることは間違いありません(そのためのしくみですから)。
平成28年年金改正で、未調整分(本来、マクロ経済スライドを発動すべきであるが、物価、賃金による調整率がプラスでないために発動できなかった分)を翌年度以降に繰り越すという、いわゆるキャリーオーバー制が導入され、平成31年度に実施されました。
(次回に続く。)
今日も、拙い文章をお読みいただきありがとうございました。
(2020.02.05)(一部修正 2020.06.20最終)